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試してみます。
謎の初期「本様」四号仮名
鈍々と進めてゐる初期「本様」仮名調査の備忘録。
かつて「秀英舎(製文堂)の五号平仮名は明治30年代半ばに急激なモデルチェンジを遂げる」で五号仮名の出現状況を調べた後、秀英四号の出現状況をも平行して調べようとしていて、調べ始めた頃は「秀英四号の最初期用例を探す」に記した通り秀英舎の印刷物に明治十年代後半から秀英四号風の仮名が少しずつ混ざっていくものと思っていたのだが、どうもそうでは無いようだ。まず、明治十八年に秀英舎が刷った田口卯吉『日本開化之性質』序文より。

紙面を眺めると、東京築地活版製造所の「和様」四号と「本様」前期四号に、別系統の仮名(赤丸印)を混ぜたもののように見える。
続いて、明治二六年の井上円了『妖怪学講義緒言』より。

紙面を眺めると、これもまた、東京築地活版製造所の「和様」四号と「本様」前期四号に別系統の仮名(赤丸印)を混ぜたもののように見える。 当初はこの赤丸印の仮名を「秀英四号の原型」と思っていたのだが、例えば高田道見『因果の枝折』など明治二六年〜二七年に秀英舎が刷った正真正銘の最初期「秀英四号」と比べてみると、だいぶ違ったもののようだ。
この赤丸印の仮名について、「前期秀英四号」とでも呼ぶべきものかどうか判断がつかないまま調査を続けていたところ、明治十二年の印刷物に赤丸印系統の仮名用例が見つかった。 望月誠『心の養生』より。

紙面を眺めると、東京築地活版製造所の「和様」四号と「本様」前期四号に、「仮称博聞四号」と、別系統の仮名(赤丸印)を混ぜたもののように見える。
秀英舎は明治十四年に製文堂を発足させているが、それ以前に「前期秀英四号」の開発に着手していただろうか。既成の仮名書体と考えるべきものだろうか。 既成の仮名書体だとするなら、印刷局や築地活版のカタログ外モデルといったものだろうか。国文社など当時活字の販売を手がけていたらしい他のベンダーの仮名だろうか。 すべての字種が見つかるだろうか。
ここから先は、判らないことだらけ。
秀英四号の最初期用例を探す
秀英舎の最初期の活版印刷事業を支えたという製紙分社は、現在までに私が近代デジタルライブラリーで見た最初期の四号平仮名印刷資料において、和様と築地前期四号の混合セットを用いている。
ここから秀英舎がどういう筋道を辿ったか、「経済雑誌社」「鴻盟社」等々のキーワードを手がかりにして散策してみたことがあるのだが、明確なところは判らない。また、製紙分社の状況についても、キーワード「製紙分社」で抽出される資料があまりに少なく、何も判らなかった。
このあたりについては、印刷物だけでなく、印刷史の資料――当時の事情について記したテキスト――の手引き無しには、なかなか進みようのない、道があるのか無いのか判らない場所だという印象だった。
ともあれ、散策中に出会った幾つかの印象的な資料について、メモを残しておく。この資料群のせいで、私は「博聞社型四号」措定を試みるハメに陥ったのだった。
博聞社の四号平仮名活字について
昨年来ひそかに追いかけていた博聞社の活字書体に関するメモ。
二〇〇七年三月現在、近代デジタルライブラリーで「博聞社」をキーワードに指定して検索されてくる資料が二八三点ある。国会図書館のOPACで出版者の項を「博聞社」に指定すると、三二三件がヒットする。
近代デジタルライブラリーでヒットする二八三点と、偶然出会った一点(出版者は博聞社ではないが印刷と発売を博聞社が請け負っている)と、別途探し出した一点の計二八五点を眺めた結果、私は、次の印象を持つに至った。
明治期の仮名活字のうち、明朝漢字と楷書漢字のどちらとも組み合わされる仮名書体を、今田欣一氏の用語に倣って「本様仮名」と呼んでおくと、博聞社が関係する印刷資料のうち平仮名活字を用いたものは、初期本様仮名の成立事情を考察するのに不可欠な資料群ではなかろうか。
また、四号平仮名について「博聞社型」の活字書体を仮定・措定できれば、印刷会社としての博聞社、また活字鋳造・販売者としての博聞社、各々の業容の検証や、出版史研究など近隣分野の研究にも役立ちそうである。
なお、最低限ここまでは当たっておきたいと考えている周辺資料の調査がほとんど手付かずの状態なので、このメモは、印刷史研究あるいは和文活字書体史研究の観点から私が行なっている「博聞社」調査研究の、二〇〇七年三月現在の経過報告として記すものである。
画像データや書誌情報はメモから省いてあるので、近代デジタルライブラリーへのリンクと、「聚珍録検索」をご活用願う。
[雑文] 最初期和文アンチック体活字のこと
日本語テキストを印刷する活字書体のひとつに、アンチック体と呼ばれる書体があります。実際にアンチック体が使はれてゐる印刷物を探してみたり、電子活字の広告に記された売り文句を眺めてみたりしたところでは、主な用途は辞書の見出しであるとか、マンガのフキダシのうち平仮名の部分であるとか、幼児向け絵本などといったところになるやうです。
このアンチック体は常にアンチック体と称されてきたわけではないやうです。例へば上記の『帝国大辞典』(1896/明治二十九年、三省堂)や棚橋一郎他『日本新辞林』(1897/明治三十年、三省堂)などの見出しに使はれてゐる、秀英舎製文堂のものと思はれる六号サイズの肉太平仮名書体は、片塩二朗『秀英体研究』(2004/平成十六年、大日本印刷株式会社)が掲げる推定1896/明治二十九年の製文堂『活版見本帖 未完』や1903/明治三十六年の製文堂『活版見本帖』では「太字」と呼ばれてをり、大正年間の見本帖でも「太字仮名」と呼ばれてゐます。
平凡社『大辞典』(1935/昭和十年初版、1974/昭和四十九年復刻版)には「アンチックカツジ ――活字(くわつじ):ローマン書體に類する肉太の活字。古の印刷物に見る文字に似て種類多し。本辭典に使用せる各項目見出しは、即ち片假名のアンチック書體である。」との記述が見られ、板倉雅宣『和様ひらがな活字』(2002/平成十四年、朗文堂「Vignette 03」)百十三ページに掲載されてゐる1911/明治四十四年の凸版印刷『活版略見本』では同様の書風の平仮名書体が「五號アンチック」と称されてゐますから、大正年間あたりを境として「アンチック」といふ呼称が一般化したものと想像されます。
和文ゴシック体や和文アンチック体については、同じ呼称の欧文活字――名称から考へるとアメリカ系統のもの――に着想を得て作られたものと大雑把に考へられてきたやうですが、今回私は、和文アンチック体活字の出生の秘密に関はるのではないかと想像される資料の存在に気づきましたので、ここにご報告申し上げます。
[更新] 0.2005.1112版
Oradano明朝フォントを更新しました。
今回の更新で、現在の教育漢字に相当する字種は全てカバーした筈ですが、その実装字形がJIS X 0213:2004の規格に適合するとかしないとかいふ点は2つの意味で無視してをります。
1つは、包摂基準の観点で、例へば「国」「画」などの実装字形は不適合の可能性が高いと思はれます。
もう1つは重複符号化で、例へば「圓」字形を1-17-63(通常は「円」)と1-52-04の双方で実装してゐます。ただしこれは正字主義云々ではなく、依拠資料中に現在の常用漢字に相当する略体・俗字が見えるものについては、「区」「声」などのやうにむしろ積極的に実装してをります。
これまでの作業は、CLWFK/FF+CLWFKで新たなプリミティブデータを編集する際に有用であらう正当な活字明朝体骨格を、近代デジタルライブラリーなど世界のどこに居ても参照できるソースを用ゐて、かつての「Watanabe明朝」程度のアウトラインの品質で提供しようという目論見でした。決して、築地三号の復刻や翻刻といった大げさなものではありません。
ここ3年ほどの作業を通じて、「写」「労」「麦」など単純で難しい文字もターゲットである以上、「近代デジタルライブラリーなど世界のどこに居ても参照できるソースを用ゐ」るといふ縛りを外し、可能ならば東京築地活版製造所「三號略字」(昭和10年)をも利用したいと願ふようになりました。
文化庁文化部国語課『明朝体活字字形一覧』に掲載されてゐる「三號略字」見本をお持ちの方が、この目的での利用をお許しくださるようであれば、ぜひ活用させて頂きたく存じます。
[雑文] 明治三十一年四月改正の五号平仮名は後期五号
府川充男さんと小宮山博史さんのご協力により、武蔵野美術大学美術資料図書館が所蔵している、東京築地活版製造所が発行した「明治三十一年四月改正」五号明朝活字総数見本の複写のコピーを取得することができました。
表紙に見られる「文明活版印刷所々蔵見本」なる書き込みや、発行者名上部のヨゴレが、矢作勝美『活字=表現・記録・伝達する』(1986年、出版ニュース社、ISBN4-7852-0029-4)のカバー図版のものと全く同じなので、矢作さんがお持ちの原本が複写されて武蔵野美術大学に在るのだと思はれます。
問題の五号平仮名はといふと、標記の通り、完全に後期五号仮名となってをりました。
ご協力いただいたお二方に深甚なる謝意を表すると共に、佐藤敬之助『ひらがな』の“改正五号”問題にひとつの回答を与へるだらう資料の再発見を大いに喜びたく思ひます。




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